こんにちわ。
元不動産賃貸営業マンをしていました中田です。
前回の「部屋を借りるときの契約書で気を付ける点・部屋探しの流れ⑦」に引き続き契約書類関係の説明を行います。
今回は「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」についてです。
東京で部屋を借りる場合は契約書と説明書に署名捺印
東京都にある部屋を借りる場合
「賃貸借契約書」
「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」
「重要事項説明書」
この三つに署名、捺印する事になります。
賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書とは
この条例は、住宅の賃貸借に係る紛争を防止するため、原状回復等に関する民法などの法律上の原則や判例により定着した考え方を宅地建物取引業者が説明することを義務付けたものです。
引用:東京都都市整備局
退去時の通常損耗等の復旧は、貸主が行うことが基本であること
入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが基本であること
賃貸借契約の中で、借主の負担としている具体的な事項
修繕及び維持管理等に関する連絡先
引用:東京都都市整備局
簡単にいうと大家さんと契約者の間で良く起こるお部屋のトラブルについて、どのような負担割合になるかを法律上の原則や判例により定着した考え方を説明しなさいという条例です。
この条例は説明することを義務付けたもので、賃貸借契約の内容や敷金の精算方法について規制しているわけではないので、勘違いしないように注意しましょう。
トラブル多発の原状回復。本来の原状回復の定義とは
契約書関係の中で必ず出てくる言葉で「原状回復」というものがあります。
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインより抜粋
部屋を借りた人の故意、過失、室内の使用に関して注意を怠った為の損耗、通常の使用を超える使用による損耗は入居者負担で直してください。ただし住み続ける事によって起きる自然劣化の部分は含まれませんよという意味です。
貸主負担(大家):「通常損耗」「経年変化」
借主負担(契約者):「借主の故意・過失や通常の使用法に反する使用など、借主のの責任によって生じた損耗やキズなど」「故障や不具合を放置したり、手入れを怠った事が原因で、発生・拡大した損耗やキズなど」
東京都都市整備局 賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドラインより抜粋
それでは具体的な例で見て行きましょう。
壁(クロス)
クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
⇒(通常損耗)=貸主負担
タバコのヤニよるクロスの汚れが掃除で除去できる程度
⇒(通常損耗)=貸主負担
タバコのヤニよるクロスの汚れが掃除で除去できない場合
⇒(通常損耗とはいえない)=借主負担
画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替を不要な程度)
⇒(通常損耗)=貸主負担
くぎ穴、ネジ穴(下地ボードの張替が必要な場合)
⇒(通常の使用を超える)=借主負担
冷蔵庫、テレビな後部壁面の黒ズミ(電気ヤケ)
⇒(通常損耗)=貸主負担
エアコン(借主所有)から水漏れし、放置したため壁が腐食
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
エアコン(借主所有)設置による壁のビス穴、跡
⇒(通常損耗)=貸主負担
壁に貼ったポスターや絵画の後
⇒(通常損耗)=貸主負担
ペットによるクロスのキズ
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
床
日照等による変色
⇒(通常損耗)=貸主負担
引越し作業で生じたひっかきキズ
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
畳の裏返し、表替え(特に破損していない)
⇒(次の入居者確保のため行う行為)=貸主負担
フローリングのワックスがけ
⇒(次の入居者確保のため行う行為)=貸主負担
色落ち(借主不注意で雨が吹き込んだ事などによるもの)
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置後
⇒(通常損耗)=貸主負担
キャスター付きのイス等によるキズ、へこみ
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
飲み物等をこぼした事によるシミ、カビ(手入れ不足等で生じたもの)
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
ペットによる床のキズ
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
水回り
風呂、トイレ、洗面台の水あか、カビ等(入居中の清掃や手入れを怠った結果、汚損が生じた場合)
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
トイレ、台所の消毒
⇒(次の入居者確保のため行う行為)=貸主負担
ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ、スス(手入れを怠ったことによるもの)
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
設備、建具
設備(クーラー等)の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の故障
⇒(注意を怠ったため)=借主負担
設備(クーラー等)の破損、使用不能(機器の耐用年数到来のもの)
⇒(経年変化による自然損耗)=貸主負担
浴槽、風呂釜等の取替え(破損してはいない場合)
⇒(次の入居者確保のため行う行為)=貸主負担
網入りガラスの亀裂
⇒(自然発生した場合)=貸主負担
地震で破損したガラス
⇒(自然災害)=貸主負担
網戸の張替え
⇒(次の入居者確保のため行う行為)=貸主負担
カギの取替え
⇒(破損、紛失のない場合)=貸主負担
居室全体
ハウスクリーニンング(専門業者による)
⇒(借主が通常の清掃を実施している場合)=貸主負担
ここまで簡単にトラブルになりやすい内容を簡単に書いてみただけでこれだけあります。
さらに国土交通省では設備耐用年数の例をあげています。(新築住宅の場合)
耐用年数 5年:流し台
耐用年数 6年:床、畳、カーペット、クッションフロア、壁(クロス)、エアコン、ガスレンジ、インターホン
引用:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
例えば新築物件に 6年住んで退去時にカーペットにシミや汚れが有るので大家からカーペット代を請求されたとしてもカーペットの耐用年数を超えており価値としては 0なのでカーペット代を払う必要はないです。
しかしこれが、1年しか住んでおらずシミ汚れがあった場合はカーペット代の 85%程度を支払わなければいけないと考えられています。
また耐用年数を過ぎたからといって粗末に取り扱いを行ったと思われた場合は支払の発生が出て来ます。
このように入居期間が長いほど大きな経年変化、通常損耗があるはずで、入居期間の長さに関わりなく修繕費が同額となる事は不公平であり、その場合は大家さんに必ず相談しましょう。
東京で部屋を借りる時、契約書のほぼ全てに特約が付いている
さて先ほどの負担区分の具体例にあげました「ハウスクリーニング」ですが大家負担と書きましたが東京の賃貸物件は、ほぼすべての物件で借主負担になっています。
それは契約書に「特約」があり退去時の「ハウスクリーニング」を借主負担としているためです。
- 当事者間の特別の合意・約束
- 特別の条件を付した約束
これは民法で「契約自由の原則」が基本とされており契約内容は原則として当事者間で自由に決めることができるためです。
しかしながら、特約はすべて認められるわけではありません。部屋を借りる際の特約が認められる要件を見てみましょう。
特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
借主が特約による義務負担の意思表示をしていること
東京都都市整備局 賃貸住宅トラブル防止ガイドラインより抜粋
このように「契約自由の原則」を利用して東京の、ほぼすべての賃貸物件で「特約」があり「ハウスクリーニング」は借主負担となります。
減らない敷金返金トラブルの原因はガイドラインと特約の矛盾
ここまで書いてみましたが、非常にわかりにくいですよね。
例えばガイドラインではハウスクリーニング代は大家負担としながらも、ほとんどの物件で「特約」を付ける事によってハウスクリーニング代を借主に請求できるといった矛盾が生じています。
そしてこのような矛盾があるので、いつまでも退去時の敷金返済トラブルが無くならず裁判が起こっているのです。
ちなみに裁判の判例ではハウスクリーニングの特約を認める判決と認めない判決、それぞれが出ています。
みなさんもトラブルにならないためにも、よく契約書の内容を確認しましょう。